CDの紹介という形で。
マニャール チェロソナタ、ウィドール チェロソナタ、ケックラン ブルターニュの歌 (ハイペリオン・レーベル)
スウェーデンに生まれイングランドやアメリカで活躍するチェリスト、マッツ・リドストレムが気心の知れたベンクト・フォシュベリと組んで録音したフランスのチェロとピアノのための作品選集シリーズの中の一枚。
リドストレムのチェロは確かなテクニックとともにシュタルケルあたりを思わせる太く力強く暖かい響きを持っている。この音と親しみのある風貌にだまされるが、極めて現代的な知性を持った演奏家だ。
さて、このCDでの聴きものはマニャールのソナタで、屈指のチェロソナタだ。とりわけ第3楽章は色彩感と独特のロマンティシズムが横溢していて魅力的。ここではチェロとピアノそれぞれが、協調しようとする意志と独自に幻想を繰り広げる欲求の間で揺れ動く。その過程で自己の内部の葛藤と相手との葛藤が絡んで不思議な緊張の濃淡を生み、幻想を深める。リドストレムはここで極めて遅いテンポながら屹立するような強い音を選択することによって容易にピアノと溶け合わず、作曲家の意図を強調している。そのために楽章の最後のピアノと一体になった歌が強く訴えかけてくる。
エリック=マリア・クチュリエとローラン・ワグシャルという2人の若い名手の演奏などは、もっとなめらかで甘美な演奏だが、やや一面的なきらいがある。内的な劇性を追求したリドストレムとフォシュベリに一日の長があるだろう。いずれにしても、もっと頻繁に演奏されてしかるべき曲だと思う。