[ 閑話的扱いにしようと思っていた音楽の話題をネタ切れを理由に増やすのは避けたいのですが(笑) 今回、「好きな曲」というひねりのないタイトルはひとまずやめます。(ひねるつもりもないけど。) ]
例えばD.960のピアノソナタ。 冒頭から何か記憶を呼び覚ますようなケンプのシューベルトの世界に引き込まれる。それも感覚的・触感的な手触りのみ残った遠い記憶だ。 それでは、この音楽にダイナミズムは欠如しているかといえばさにあらず。昨今の、極度に計算された強弱により聴き手を心理的にコントロールするタイプの演奏に慣れてしまうと気づきにくいが、少ない身振りからそれを生み出している。 そして、冒頭楽章の終結部や緩徐楽章に聴ける最も深い歌。それは夾雑物のない個人の感情に裏づけられており、表現意図などとうに乗り越え、緩やかな清流のように聴き手の心を満たしていく。 即興曲、中でもD.935の第1曲が与える感銘もソナタに匹敵する。晩夏の森の中に身を置いたような、生命の充溢と隣り合わせにある寂しさ。そして、ここにも象徴的な小さなせせらぎがあり、永続的な流れを暗示する。 この類いまれなケンプという「個人」が西洋音楽の歴史を肌で感じる環境に身を置き包括的な視野を持っていたこと、そして自身の感情そのものを無類の関心を持って探求し省察せずにいられない人間だったこと。それがシューベルトの本質を衝くことを可能にしたに違いない。 …いずれの曲も、往年の名ピアニスト、ヴィルヘルム・ケンプの有名なグラモフォン盤について。 ![]() E-3=14-54mmf2.8-3.5 ▲
by a-path
| 2008-08-20 22:21
| 音楽
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![]() 夏の間は日の入りの時刻に敏感になる気がする。気がつくと時刻と日の状態を比べていることが多い。6月末の最も遅い時期からわずかずつ早まっていくのを実感として捉えることができる。数分の違いが大きく感じられる。 もっとも、地形や天候の影響で印象として早く感じたりすることもあるけれど。 今月下旬にもう一度小旅行を、と思っているけど、その頃には少なくとも日の入りの時刻という点では初秋を感じることができるだろう。 ▲
by a-path
| 2008-08-16 20:28
| E-410
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CDの紹介という形で。
マニャール チェロソナタ、ウィドール チェロソナタ、ケックラン ブルターニュの歌 (ハイペリオン・レーベル) スウェーデンに生まれイングランドやアメリカで活躍するチェリスト、マッツ・リドストレムが気心の知れたベンクト・フォシュベリと組んで録音したフランスのチェロとピアノのための作品選集シリーズの中の一枚。 リドストレムのチェロは確かなテクニックとともにシュタルケルあたりを思わせる太く力強く暖かい響きを持っている。この音と親しみのある風貌にだまされるが、極めて現代的な知性を持った演奏家だ。 さて、このCDでの聴きものはマニャールのソナタで、屈指のチェロソナタだ。とりわけ第3楽章は色彩感と独特のロマンティシズムが横溢していて魅力的。ここではチェロとピアノそれぞれが、協調しようとする意志と独自に幻想を繰り広げる欲求の間で揺れ動く。その過程で自己の内部の葛藤と相手との葛藤が絡んで不思議な緊張の濃淡を生み、幻想を深める。リドストレムはここで極めて遅いテンポながら屹立するような強い音を選択することによって容易にピアノと溶け合わず、作曲家の意図を強調している。そのために楽章の最後のピアノと一体になった歌が強く訴えかけてくる。 エリック=マリア・クチュリエとローラン・ワグシャルという2人の若い名手の演奏などは、もっとなめらかで甘美な演奏だが、やや一面的なきらいがある。内的な劇性を追求したリドストレムとフォシュベリに一日の長があるだろう。いずれにしても、もっと頻繁に演奏されてしかるべき曲だと思う。 ![]() ![]() ![]() ▲
by a-path
| 2008-08-11 10:12
| 音楽
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